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2019年1月13日 (日)

ルーベンス展─バロックの誕生(9)~Ⅵ.絵筆の熱狂(1)

Rubence2018sturusla  下のフロアでの宗教画の大画面が並んだ大広間が、この展覧会のクライマックスだったとすれば、この展示は最後の前に、もうひと盛り上がりといったところでしょうか。大画面の大作こそありませんが密度の濃い画面の傑作が目白押しで、思わず惹き込まれてしまいます。“ルーベンスの芸術は同時代の美術理論書において、しばしば「普遍的」という言葉とともに説明された。この場合の普遍的というのは、統一的かつ総合的な性格のことで、画面に描き込まれたさまざまなものが、全体としては生き生きとして美しく見えると言っているのである。その秘訣は、色彩と、それを画面に与える素早く熱狂的な筆遣いにあった。いみじくも17世紀の美術理論家ベッローリは、「絵筆の熱狂」という言葉でルーベンスの絵画を説明している。ルーベンスの筆遣いは、細部を省略し、逆に誇張を用いつつ、画面に統一感のある激烈なヴィジョンを生み出して、見る者の空想と想像を掻き立てる。これはヴェネツィアのティントレットやマントヴァのジュリオ・ロマーノら、イタリアの先行する時代の作品を消化することによって得られたものであった。こうしたルーベンス芸術の性格の最もわかりやすい形で見られるのは、力と力がぶつかり合い、動きに溢れ、人間と馬、武具がからみ合う場面である。”と説明されています。しかし、それはおそらくルーベンスの作品全般について言えることではなくて、一部の傾向であると思います。例えば、展示室に入る前にビデオで映写されていたアントワープ大聖堂に掲げられた大作といった代表作では、工房で他の画家に分担させて描かせ他者です。その場合、他の画家たちにルーベンスと同じような熟達した筆遣いを一律に求めることはできないでしょう。また、イタリアの人々にはヴェネツィア派のような荒っぽい筆遣いは歓迎されたかもしれませんが、ルーベンスの地元であるフランドル地方はファン・アイクのような精緻な絵画の伝統が受け継がれているところです。そのような事情から「絵筆の熱狂」と言えるような傾向が抑制された作品が残されています。それは、この後のコーナーで展示されていた「マルスとレア・シルウィア」といった作品にも当てはまります。
Rubence2018sturusla2  大作は工房で他の画家に分担させて描かせる必要がありましたが、そのための下絵や規模の小さな作品は、おそらく他人に任すことなくルーベンス本人が描いたのでしょう。したがって、ここに展示されていた作品は比較的中小規模の作品ばかりです。しかし、大作ではどうしても他人に描かせるから、100%自分の思った通りにはならない、ある程度のところで妥協しなくてはならない。それが、小品や下絵は自分で描くから、そのような妥協せずに済む、そこで思い切り羽根を伸ばすように描いたといえるのが、ここに展示されている作品ではないかと思います。それだけに、かなり攻めている作品が並んでいたと思います。
 「聖ウルスラの殉教」という作品です。横1mほどの横長だから小さい作品です。実現に至らなかった作品の下絵であると説明されていますが、おそらく、全体の構想のデザインのようなものでしょう。筆遣いなどは荒っぽくて、時間をかけずにさっと描いたように見えます。彩色だって几帳面にやっているようにも見えない。画面真ん中の白い衣を着たウルスラが天を仰いでいるところに光が差して、その光の中に腕を広げて受け止めるような姿勢のキリストや天使が向かっています。それ以外のところは光のない闇のようななかで殺戮の場面になっています。画面を極端に光と影に二分し、光の部分にテンコ盛りでキリストや天使を詰め込んで神々しさの洪水のようです。その極端な対照、こういう構図はティントレットあたりの影響(例えば、ティントレットの「聖カタリナの殉教」)ということなのかもしれませんが、ルーベンスの画面の方が、場面に奥行きや広がりがあって暗闇の現実(殺戮の場面、この現実の場面が素早い筆遣いで大胆な省略を伴って描かれているためか、この場面の人物たちが、まるで幽霊のように見えるのです。それがゆえに現実の場面でありながら、非現実に見えてくる)に対照して光の部分が強調されることになっています。そこで、非現実に現実が映るに対照して、幻想であるキリストの救いがリアルに映ってくるという転倒が生まれる。しかも、殺戮のダイナミックな生々しさがあり、それがあってこそ天上から天使が殺到してくるようにウルスラに迫ってくる。だから、ティントレットの作品に比べて、闇があるにもかかわらず、全体として暗い画面には見ないのです。

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