ルーベンス展─バロックの誕生(9)~Ⅵ.絵筆の熱狂(1)


「聖ウルスラの殉教」という作品です。横1mほどの横長だから小さい作品です。実現に至らなかった作品の下絵であると説明されていますが、おそらく、全体の構想のデザインのようなものでしょう。筆遣いなどは荒っぽくて、時間をかけずにさっと描いたように見えます。彩色だって几帳面にやっているようにも見えない。画面真ん中の白い衣を着たウルスラが天を仰いでいるところに光が差して、その光の中に腕を広げて受け止めるような姿勢のキリストや天使が向かっています。それ以外のところは光のない闇のようななかで殺戮の場面になっています。画面を極端に光と影に二分し、光の部分にテンコ盛りでキリストや天使を詰め込んで神々しさの洪水のようです。その極端な対照、こういう構図はティントレットあたりの影響(例えば、ティントレットの「聖カタリナの殉教」)ということなのかもしれませんが、ルーベンスの画面の方が、場面に奥行きや広がりがあって暗闇の現実(殺戮の場面、この現実の場面が素早い筆遣いで大胆な省略を伴って描かれているためか、この場面の人物たちが、まるで幽霊のように見えるのです。それがゆえに現実の場面でありながら、非現実に見えてくる)に対照して光の部分が強調されることになっています。そこで、非現実に現実が映るに対照して、幻想であるキリストの救いがリアルに映ってくるという転倒が生まれる。しかも、殺戮のダイナミックな生々しさがあり、それがあってこそ天上から天使が殺到してくるようにウルスラに迫ってくる。だから、ティントレットの作品に比べて、闇があるにもかかわらず、全体として暗い画面には見ないのです。
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