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2019年2月 8日 (金)

ムンク展─共鳴する魂の叫び(6)~3.夏の夜─孤独と憂鬱(1)

 ヨーロッパの都会での活動を続けながら、夏の間はノルウェーの漁村に小屋を手に入れて、過ごした。そこでの作品ということです。
Munchsummer  「夏の夜、渚のインゲル」という1889年の作品です。前のコーナーの「病める子」でも触れた<生命のフリーズ>のモティーフの一つでもある浜辺にいるメランコリックな人物像の萌芽となった作品だそうです。画家の妹であるインゲルは明るい夏の夜の浜辺に白い服を着て、大きな岩の上に座り、静かに物思いに耽っています。海岸の岩は抽象的に表現され、神秘的な形をとっています。背景の海岸には漁網の竿が右から斜めに内側にスライドする明確な線として伸びていて規則的に区切られてリズムを作っています。また、インゲルの背後には波の線が水平に横切っています。これに対して、主人公であるインゲルが垂直に交錯していると言えます。また、浜辺の岩は丸まった曲線で、直線による海岸の上半部と対照ですし、赤茶色で、海の青とで対照されています。色の塗りは全体としてノッペリしていますが、インゲルの白い服のところはテクスチャが見えてくるように細かく短い筆遣いで、浮き立たせられています。しかも、その白が際立つように、それ以外の部分は色を混ぜて鈍くしてあります。それだけに、見る者の目には穏やかに調和的に映ります。海岸の竿の区切りの反復のリズム、石の整然とした配置。全体として、画面は静止した印象で、画中のインゲルは風景を見ているというより、夢うつつで坐っている。つまり、意識として現実にいない。一見、自然主義的なようでいて、当時の批評家から手厳しい反応を受けたと言います。
Munchmelan  「メランコリー」という1894年頃作品です。5年前の「夏の夜、渚のインゲル」では白い服を着た女性が浜辺に座っていましたが、この作品では男性になりました。わずか5年の間に画面は奥行きや立体感がなくなって平面的になり、色の塗り方には陰影がなくなってベタッとした塗り絵のようです。しかも、人物や風景は簡素化されて、浜辺の岩は「夏の夜、渚のインゲル」では丸く曲線で構成されていたのが、より平面化されて、彎曲した海岸線や波あるいは空の雲の曲線など同じ平面で連なって渦巻きのように見えてきます。それらは、背景でリズミカルな鼓動を作り出しているという見方もできますが、ある心理的な不安定さ、感情的な雰囲気を作り出しているようにも感じられます。それは、画面前方の憂鬱そうに手で頭を支え、海岸に座る黒い服を着た男性の背景というか、男が顔を向けている方向の空間に拡がっているのです。しかも、色遣いが、まるで男性の心に心の混乱を風景の渦巻きとて投影しているようなに感じさせるようです。これは、「夏の夜、渚のインゲル」では、石の配置や海に立つ竿など部分的だったリズミカルな図案化を画面に大きく拡大して、全体の動きのリズムを作り出すようになっています。そして、画面上方に遠景のように桟橋に二人の人物が立っているのは、現実なのか、座っている男性の想像、おそらくは憂鬱の原因を投影させたものなのか分かりません。どちらにも見えます。というのも、この作品にまつわるエピソードとMunchmelan2 して、ムンクの友人のニルセンは画家クロスチャン・クローグの妻オーダとの間に不倫関係にあったことを題材としたと言われています。それを援用すると、画面中心の人物はニルセンであり、遠景の桟橋に立つ白い服を着た女性と男性はクローグ夫妻で、二人は桟橋からボートに乗り込んで、愛を作ってくれる島へと向かう風情です。それに対して、ニルセンは嫉妬と失恋の憂いにとらわれている。「夏の夜、渚のインゲル」では、女性がメランコリックな姿ですわっている画面でしたが、この「メランコリー」では画面の男性の憂鬱が具体的になっています。それと反比例するように、画面の描き方はリアリズムから後退し、平面的な図案のようになって、男はエピソードのニルセンであるか分からず、男性のかたちに抽象化を進めています。それが、版画の「夕暮れ、メランコリーⅠ」で画面は左右反転されて、まるで写真のネガフィルムのような陰画のようになってしまいます。それは、男性の心理という内側から映る景色のようです。

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