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2019年7月12日 (金)

村田純一「味わいの現象学─知覚経験のマルチモダリティ」(4)~第2章 感覚のスペクトル(2)

(2)皮膚によって見ること、あるいは音によって見ること
 続けて、グライスの四つの規準の残りについてです。感覚という言葉を人間に限ることなく、動物の場合も含めるとすると、コウモリやイルカのエコロケーションという知覚方法は自ら超音波を発して、それが何かに反射して跳ね返ってくる反響音を聞くことで対象を検知するのとか、ミツバチは紫外線に反応して色を識別したりと、グライスの第二の規準を用いることができないケースが出てきます。
 第三の規準では、視覚は光刺激に対する反応であり、聴覚は空気震動に基づく刺激に対する反応ですが、それが第二の基準である視覚は眼による感覚であり、聴覚は耳による感覚というのを考慮に入れない限り一般には受け入れられない。それは、実際には感覚代替システムという事例がそのことを示しているといいます。たとえば触覚による視覚代替システムという装置では、光刺激を検知するテレビカメラと、その刺激を変換して皮膚に置かれた格子に小さな針の振動する触覚ディスプレイで情報を伝えるものです。眼の不自由な人は、テレビカメラを頭に、触覚ディスプレイを腹または背中に装着して、様々な対象を「見る」ことができるようになります。これを装着した人は触覚ディスプレイは透明化し、視点はカメラからの視点である頭上に移動するそうです。この装置によって可能となる経験は「皮膚による視覚」と呼ばれます。では、この装置は皮膚なのか眼なのかということ、装着者にとってどちらの刺激が決定的かというのは、その人が何を、どのように経験しているかを確認できなければ分かりません。しかし、このような見ることなのか触覚で感じることなのかという一義的に決められるので使用か。むしろ、この場合は技術によって作られた新しい感覚様相と言えるかもしれない。このようにして、感覚様相を定義するには経験の次元が不可欠であり、同時に他方では物理的次元も消して無視できない。ただし、ここでいう物理的条件とは、それらに適応し、それらを刺激という役割や感覚器官という役割、さらには脳という情報処理器官として、知覚経験をもたらす連関に取り入れることができる限りで意味を与えられる条件であり、知覚主体と無関係に特定できるものではありません。感覚代替システムやエコロケーションの事例が示しているように、主体が経験する仕方は主体がどのように外的、内的な物理的条件に適応し、それらをいわば身体化しているかに対応しているのです。感覚代替システムは当初は触覚的刺激を皮膚に伝える装置だったのが、次第に身体の延長と化して、刺激の現われ方も変化し、感覚器官のあり方も変化しました。したがって、感覚器官や刺激の特質等物理的、生理的な条件は、それだけをとれば、どのような経験がなされているかという感覚のあり方を決める上で、決定的な条件になっているわけではないのです。
 これは次のようにまとめることができます。世界がどのように現われ、我々が世界をどのように経験しているのか、というあり方は、我々が世界の中にどのような仕方で物理的、身体的に内属しているのかということと無関係ではありません。無関係ではないどころか、本質的に関係しています。ただしその関係のあり方は、あくまでも「身体的な世界内存在」の一形態として実現するその時々の知覚経験のあり方を可能にするという関係に登場する限りでの話です。このような意味で、感覚を身体的世界内存在のあり方としてとらえる見方は、感覚が物理的世界のなかにどのように実現しているのかについての解明を重要な課題のひとつとしているということになります。
 この議論が示しているのは、感覚を特徴づけるためには、伝統的に取り上げられてきた四つの規準のひとつだけを選ぶ必要はないし、また選ぶことはできないということです。換言すると、感覚は多次元的な仕方で決定されているトム考えた方がよいということです。
 しかしだらといって、事実として長い間ごく自然なものとして理解され、用いられている区分に全く意味がないと思えません。むしろ日常的な経験の中で自然な形で理解されているあり方の中に、感覚の区別と連関を理解する手掛りがあると考えることもできるかもしれません。そうした観点から、二人の見解を次に見ていきます。

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