メスキータ展(1)
梅雨明けしてから、連日最高気温が35度近い猛暑日が続き、身体がダルくて頭がボンヤリした状態。そんな中で、都心に用事があって出かけた。こんな状態で、美術館に寄っても、ろくに集中して作品を見ることもできないだろうし、とくに、この展覧会に行きたいと思っていたわけでもなかった。たまたま、会期の終わり近い(あと数日で終わる)というタイミングと、東京駅構内で涼むことができる、という理由にもならない理由で、つい寄ってしまった。けっこう評判がよかったようで、夕方4時過ぎという時間帯にもかかわらず、入場者は絶えることなく続いて入ってくる状態。こういう近現代の作家だけれど、けっこう年配者の姿も多い(自分のことは、勘定に入れていないが)。展示作品の前に列をつくるほどの混雑ではないが、盛況といってよいのではないか。落ち着いて鑑賞できるギリキリのところという雰囲気。
メスキータという作家については、よく知らない人なので、主催者のあいさつを紹介がてら引用します。
“サミュエル・イェスルン・デ・メスキータ(1868~1944)。この聞き慣れない名前の人物は、19世紀後半から20世紀前半を生きた、オランダのアーティストです。ポルトガル系ユダヤ人の家庭に生まれ、ハールレムやアムステルダムで、画家、版画家として、また、装飾美術の分野でデザイナーとしても活躍しました。その一方で、美術学校の教師として多くの学生を指導しています。中でもM. C. エッシャーは、メスキータから最も大きな影響を受けた画家で、特にその初期作品は、メスキータの作品と著しく類似しています。
メスキータの仕事は、デザインとアートの双方にまたがっています。デザインの分野では、幾何学的な構成を生かし、雑誌の表紙や挿絵、染織デザインなどを手がけました。一方アートの分野では、まず版画家として、主に木版画で人物や動物、植物を題材に白黒のコントラストを強調した作品を数多く残しました。また、想像力のおもむくままに筆を走らせた、膨大な数のドローイングを制作しています。
メスキータの最大の魅力は、木版画の力強い表現にあります。鋭い切れ味の線描による大胆な構成、明暗の強烈なコントラストを生かした装飾的な画面は、見る者に強い印象を与えます。アムステルダムの動物園や植物園に招来された、異国の動植物がメスキータの格好のモチーフでした。単純化された構図と明快な表現、装飾性と平面性が溶け合った画面には、しばしば日本の浮世絵版画の影響が指摘されます。一転して、ほとんど無意識の状態で浮かんでくる映像を作為なく描いたと言われるドローイングは、表現主義との親近性を感じさせるとともに、シュルレアリスムにおけるオートマティスム(自動筆記)の先駆けと言えるかもしれません。
ユダヤ人であったメスキータは、1944年に強制収容所に送られ、そこで家族もろとも殺されました。アトリエに残された作品は、エッシャーや友人たちが持ち帰って命懸けで保管し、戦後すぐに展覧会を開催します。メスキータの名前が忘却されずに残ったのは、エッシャーらの尽力によるところが少なくありません。近年のヨーロッパでは、カタログ・レゾネ(全作品目録)が発行され、相次いで展覧会が開かれるなど、メスキータの作品の包括的な紹介と評価の気運が高まっています。折しも昨2018年はメスキータの生誕150年にあたり、今年2019年は没後75年を迎えます。本展は、これを機に、知られざる画家メスキータの画業を、版画約180点、その他(油彩、水彩など)約60点、総数約240点の作品を5つの章分けで、本格的に紹介する日本での初回顧展です。”
主催者あいさつや展覧会ポスターの惹句にあるようなエッシャーが命懸けで守ったとか、強制収容所で亡くなったとかいった物語に引っ張られてイメージを縛られてしまいそうになりますが、そんなことなくても、それなりに興味ある作家、それに比較的語り易い作家ではないかと思います。つまり、立ち位置としては、凡庸ではないが、独創的とまではいかない、センスのいいヒネリで他の作家との差異をつくって差別化するというタイプではないかと思います。
展示はメスキータの年代順ではなく、テーマ別にまとめられていました。では、作品を見ていきたいと思います。
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