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2020年3月 2日 (月)

坂田一男 捲土重来(3)~Ⅱ.帰国後の展開 戦中期 カタストロフと抵抗─手榴弾/冠水(1)

Sakatacarp  1933年に坂田は帰国します。この時代の日本は日中戦争から第二次世界大戦に突入していこうとする頃で、国内は国家総動員体制が敷かれようとしていた、つまり、言論が弾圧されたりして自由が抑圧され、画壇でも戦争への協力を強制されるような時代でした。しかし、帰国以後の坂田の仕事には、このような社会情勢に影響を受けず、ヨーロッパで学んだ抽象的な絵画制作を一貫して続けていたように見えます。それは、現在では想像することもできませんが、驚くべくことだったと、それは、そもそも坂田の絵画の中に、変動する時期に対する抵抗が構造として組み込まれていたではないかと説明されていました。そうであれば、前にも触れましたが、坂田の絵画の志向というのが、ここで明らかになるのかもしれません。
Sakatacarp2  とはいえ、帰国後の坂田の作品のなかで取り上げられた題材がわずかに時局に対応しているのではないかという変化を監修者の岡崎が指摘しています。その一つが銃を持った兵士の姿が現われるデッサンです。これはレジェの作品のような丸と円筒で構成された人物の描き方です。もう一つは鯉のぼりです。例えば「端午」という1957年の作品です。“空気を孕んで膨らむ鯉のぼりの下部が唐突に切断され、黒く塗り込められた空間として描かれていることです。この理の領域の周囲には遠近法を示唆する斜行する線が描かれ奥行きを暗示しています。しかし、その闇の深さは画面前面を通した他の背景部とは(同じ黒を基調としていても)連続していません。あたかも鯉のぼりが孕んでいた黒い闇が流出して周囲を充し、そこだけ別の空間としての闇を湛えているようにも見えます。兵の養成を鼓舞する鯉のぼりは、軍国主義の時代において好んで掲げられるようになったと言われています。その鯉のぼりが日本刀で断ち切られたように切断され、黒い闇に浸されている。時代の空気への暗示、批判をも感じさせる表現です。”と岡崎は図録で語っています。しかし、並んで展示されていたスケッチをみれば、岡崎が指摘する鯉のぼりの切断は、風に吹かれて尻尾の部分が折れているように描かれていると見る方が自然だと思います。むしろ、スケッチと比べてみて、画面のなかで寸詰まりのように尻尾を折り曲げている鯉のぼりに対して、漆黒の背景に白く引かれた枠線や色の帯が伸びやかな垂直線で対照されている。それが折り曲げようという圧力に対して、それを押し返そうという拮抗する緊張関係を画面に作っているように見えます。闇のような黒に対して、白い線を対照させている色遣いにも表れている。むしろ、そういう造形的なところに視線が行くような作品です。後年、坂田は壺を半分に切断するような作品を何点も描きますが、この作品は同じ傾向の作品とみてもよいのではないかと思います。岡崎の説明は、私には少し思い入れが強Sakatacarp3 いと思いますが、少なくとも、この作品には坂田の意思が感じられます。少なくとも、描く対象があって、前のコーナーの対象が分からない絵画とは違います。これは、滞欧によって、坂田は対象を見つけたのか、それとも、当初もっていた抽象的な性向を後退させたのか、あるいは、時代状況の中でそうせざるを得なかったのか、分かりません。とにかく、坂田の作品は、私にとって、見る者の表面的な、心情的な思い入れを許さない潔癖さがあるように感じられます。 と書いていたら、「端午のエスキース」をみると岡崎が解説しているような鯉のぼりの尾が断ち切られているように描かれていたことが、はっきりと分かりました。ただし、岡崎が指摘するように、断ち切られていることに、それほど意味づけをしてしまうのは、後付けのような気がします。坂田の作品は、そのような物語的な色付けにそぐわない、と私には思えます。

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