ブダペスト─ヨーロッパとハンガリーの美術400年(7)~5.世紀末─神話、寓意、象徴主義
ジュール・ジョセフ・ルフェーブルの「オンディーヌ」という作品。ルフェーブルという人はフランスの画家であり教師で、女性ばかり描いていたという人らしいです。まあ、このような機会でもなければお目にかかれないでしょうし、今後、再会することもないだろうと思います。オンディーヌというのは水の妖精で人間ではないということで理想の女体として描いたのでしょうが、これはドミニク・アングルの「泉」そのままですよね。アングルの少女ヌードを成熟した大人の女性にして、赤毛にしたというだけで。象徴主義といえば、そうかもしれませんが、ヌードを描きたいとしいう下心が透けて見えるような作品じゃないですか。東京のど真ん中の公共の美術館で、臆面もなく、堂々と眺めることができるという恩恵に浴す。そういう作品だと思います。正直に申せば、そういうのは嫌いではないですから。
レオ・プッツの「牧歌」という作品。プッツはチロル地方の生まれといいますから、スイス人ということになるのでしょうか。作品は印象派のような雰囲気が強いと思います。描かれている題材や舞台も、いかにもフランスのイメ ージそのものですが。その印象派的な描き方が、とても面白くてボートの浮いている池の水の波紋が画面全体を支配しているように見えます。この波紋の描き方がたっぷりと絵の具をつけて、ものすごい厚塗りで盛り上がるように塗って、その筆の塗りで盛り上がっているのが波紋なんです。しかも、その絵の具の付け方が、基本的には黄色の色調なんですが、そこにたくさんの色が細かく入っているんです。それがたっぷりと使われて厚塗りで盛り上がると、絵の具の面がそれだけ大きくなるわけで、そこに細かな色が様々に顔を出してくる。それが筆の勢いに従ってうねるように変化している。したがって、波紋と言ってもダイナミックで多彩な変化を続けている。それが、波紋が光を反射してスペクトルのように光が分散していく様子になっています。さらに、この波紋の波動が、女性のドレスの描き方、服の模様や、その襞、そこから生まれる陰影が、水面の波紋に連動するようにうねっているんです。それが、画面全体に大きなリズムを作り出している。このリズムが、見ていて、とても気持ちのいいものになっています。
ヴァサリ・ヤーノシュの「黄金時代」という作品は、いかにも象徴主義という作品で、額も一体となって、これはラファエル前派のバーン=ジョーンズやベルギー幻想派のクノップフをすぐに思い浮かべるような作品で す。ヤーノシュはハンガリー近代を代表する画家、イラストレーターということですが、アポロとダイアナの古代の彫像に囲まれた公園の前景で、抱きしめている裸のカップルは愛の女神であるヴィーナスに捧げ物を燃やしています。夢のような雰囲気は、写真の乳白色の着色と、濃い緑色の背景と蛍光像のコントラストによって生成されます。という内容だそうです。いかにも世紀末という雰囲気に満ちた作品です。
ほかにも、多くの作品が展示されていましたが、感想を述べるのは、このくらいにしたいと思います。とにかく、数が多くて、バリエーションに富んでいるので、全体像をつかもうという展覧会ではないようです。何回か足を運んで、その時々で気に入った作品を、都度鑑賞する方がいいかもしれません。幸い、それほど込み合っているようではなさそうなので。
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