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2020年7月 9日 (木)

村井正誠 あそびのアトリエ(8)~村井正誠の「日本」

Muraiman  最後の展示室は晩年までの作品の展示です。展示では、村井の成熟期と説明されていました。前に、長谷川三郎との比較を述べましたが、長谷川が晩年に前衛書道のような抽象画を制作していたのに、似たようなことを村井もやっています。それが、この展示タイトルにあるように「日本」という要素がクローズアップされてくると思います。それは、前のコーナーで見た、線に生き物のような生き生きとしてきたことが行きついたところ、と見てもよいのではないかと思います。
 「人」という1992年の作品です。村井の晩年近くの作品で、人を描いた絵画というより、漢字の“光”という字の書のようです。黒い線は、書の筆で書いた文字の線のように見えます。書でいう墨跡のような変化が加わっています。例えば、線の太さの変化は、前のコーナーで見た作品をさらにエスカレートしていて、以前の作品のような一様さがなくなっています。それは生き物のような不定形さが加わっていると思います。そして、線の輪郭に変化がくわわっています。それは、以前の線では輪郭は明確で、機械的といえるほど一律にそろっていたのが、輪郭がぼやけたり、でこぼこになったりして、その変化が不規則で、そういう線自体の変化を見ているだけも楽しい。Muraiman2 そういう変化は線の輪郭だけではなく、絵の具の塗りもそうで、線の内部には、筆の跡が盛り上がったり、塗りが薄くなったりして、波のように表面が変化している。これは。「黒」い作品の黒の表面で工夫してきたことが、この線という面積の小さい部分に集約させて出させています。そこで、黒という色には、特有の艶がありますが、それは光が当たると反射の変化により強調されます。それゆえ、一見では、単純に見える作品ですが、小さな変化が不断に続く繊細で微妙な作品になっていると思います。「黒い人」という1998年の最晩年の作品も書のように見える作品ですが、「人」に比べてモノクロームになって、簡素さが、さらに進んでいますが、上で述べたような細部の変化が、まるで意識していないかのように、即興的に現れる融通無碍の作品になっています。
 「大覚寺」という1992年の作品です。初期作品で、「百霊廟」のように航空写真のように都市を上から見て建物等の配置を抽象的な画面にした作品があります。この作品は、それと同じようなつくりになっていると作品であると思います。京都の古刹大覚寺の塔頭と庭園を上空から見たのを抽象画のような画面にした作品です。しかし、「百霊廟」が建物が方形などの幾何学図形になって、その配置が作品の中心になっています。これに対して、Muraidaikakuji この「大覚寺」という作品は、単に建物を記号のような図形にして、その配置がつくるかたちを楽しむというものではなくて、配置そのものは「百霊廟」に比べても、はるかに単純で、それぞれの図形が不定形で、その形自体が面白いのと、余白との“間”を味わうという作品になっていると思います。しかも、その余白が面白い。おそらく枯山水の庭の白砂で作られた波に見立てているのでしょうか、白い絵の具を短い筆の筆跡で波のような短い繰り返しのように絵の具を盛り上げているつくられている表面の変化があります。それで、余白が余白でなくなって、逆に意味ありげに見えてくる。一種の逆転で、地と図が交替するようなダイナミックな動きが、この一見静かな画面に潜んでいると言えます。そういう意味では、枯山水の世界が、この作品の画面に、形は変わっているがエッセンスが詰め込まれていると見えます。
そう見ていくと、村井の作品というのは、徹底して表層的で、見るという感覚のあそびに徹していると思います。それだからこそ、何がどのように描かれているかということを言葉にすると、それが、その人が作品を、どのように見ているかを明らかにしてしまう。私のように、作品を見た感想を綴っている人間にとっては、感想を書くことによって、私の感覚や感性の底が知れてしまう恐ろしい作品であると思います。村井の作品を形容詞で語ると、それは作品からの逃げになるので、そういう感想は、実は作品をちゃんと見ていないのが、すぐに分かってしまう。

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