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2020年9月 5日 (土)

ジャズを聴く(50)~スタン・ゲッツ「STAN  GETZ  QUARTETS」

Jazgetz  スタン・ゲッツの特徴として、まずあげられるのは彼のテナー・サックスの音だ。同じテナー・サックスでもソニー・ロリンズのようなすーッと伸びるような、太くて、広がりのある、どちらかというゴツゴツした音色と比べると、ゲッツの音色は細くて、ヒョロヒョロした感じに聞こえる。それは、ロリンズには力強さでは及ばないものの、柔らかくて肌理の細かい滑らかな音色といえる。とくにゲッツは高音域を多用したので、なおさら、その印象が強くなっている。ロリンズのような吹き込んだ息をすべて音にして大きく鳴らそうとしていない、その代わりに、その音になっていない息が様々な働きをしている(例えば、耳に聞こえないけれどα波は気分をリラックスさせる、ゲッツの音とは直接関係ないけれど)、そういう音の出し方をしているということだ。
 そして、彼の演奏の仕方、つまり彼の即興は、圧倒的な「今・ここ」の感覚なのだと思う。先取りでもなく後付けでもなく、即興によって音楽が生成されていく瞬間をそのまま聴き手に提示してしまい、それがこの上なく美しい音楽になっている、という奇跡的なものだ。瞬間的な閃きによって、分かり易く美しいメロディが自然に湧いてくるというもので、漫然ときいてしまうと、その完璧さに即興的に紡ぎだされたことが分からないほどなのだ。あまりに自然なために、チャーリー・パーカーのアドリブで目の当たりにするような先行きの分からないようなスリルや緊張感を直接ぶつけられるようなことは表面的には、ない。それが、ゲッツが「クール」と呼ばれる所以なのではないか。
 そして、彼の即興演奏の作り出すフレーズが音楽的な美しさだけで勝負しているということだ。そこには情緒的な要素、センチメンタルな甘いメロディとかマイナー・コードの効果に頼るとか、あるいは、ビブラートとか陰影といった音の装飾をつける、というような一種のごまかしをしていない、ということだ。だから、冷たいと言われるかもしれないが、彼の紡ぎだすメロディは純粋に美しい。 

 

STAN GETZ QUARTETS

Jazgetz_quart  There's A Small Hote
 I've Got You Under My Skin
 What's New
 Too Marvelous For Words
 You Steeped Out Of A Dream
 My Old Flame
 My Old Flame (alternate take)
 Long Island Sound
 Indian Summer
 Mar-Cia
 Crazy Chords
 The Lady In Red
 The Lady In Red (alternate take)
 Wrap Your Troubles In Dreams

 

 #8,9,10,11  1949/06/21
  Stan Getz (ts)
  Al Haig (p)
  Gene Ramey (b)
  Stan Levey (ds)
 #1,2,3,4   1950/01/06
  Stan Getz (ts)
  Al Haig (p)
  Tommy Potter (b)
  Roy Haynes(ds)
 #5,6,7,12,13,14  1950/04/14
  Stan Getz (ts)
  Tony Aless (p)
  Percy Heath (b)
  Don Lamond (ds)
 スタン・ゲッツという人は、誤解を恐れずに言えば、スタイルは全く異なるソニー・ロリンズもそう思うが、天然とても言うしかないその場の思いつきで即興的に素晴らしいフレーズを次から次へと繰り出してしまえる天才であると思っている。ゲッツは活動期間も長く、その間に紆余曲折もあり、プレイスタイルも変遷したが、そのベースは変わっていないと思う。そして、そういう思いつきをストレートに、それだけの1本勝負で体当たりのプレイをしているのが、初期の録音に残されていると思う。とはいっても、このアルバムのサウンドは体当たりのプレイ等という言葉から連想されるド根性の熱血とはほど遠い、スマートで洗練された儚げなサウンドを堪能できる。
 最初の「There's A Small Hotel」から4曲目の「Too Marvelous For Words」が1950年1月に録音されたもので、どれも、素晴らしいプレイを聴くことができる。「There's A Small Hotel」ではアル・ヘイグの湿り気を帯びたようなピアノのイントロがなんとも歌心のあるもので、その軽快なテンポに促されるように、スウィンギーなリズムに乗って流麗なゲッツのソロが浮遊するように、多彩な音色を駆使して、音色が変わるたびにフレーズも変わって、まるで複数のゲッツがプレイしているようなめくるめく眩惑的なプレイを堪能させられる。3曲目「What's New」は人気のバラードだが、ゲッツのか細い、柔らかい音が儚さを際立たせるが、けっしてヤワではなく、その即興は譜面通りに吹いていると思うほど完璧に感じられ、むしろ遊びがないと感じられるほどだ。
 5曲目の「You Steeped Out Of A Dream」から7曲目の「My Old Flame (alternate take)」そして、12曲目の「The Lady In Red」以降の曲は1950年4月に、前とは違うメンバーで録音され、マイクの位置やスタジオ、機材が違うのか、音質が異なって、デッドな響きでゲッツのサックスが近くにダイレクトに聞こえてくる。この録音は、ほかの柔らかでほんわりした音質とは少し異質だが、「You Steeped Out Of A Dream」はスタン・ゲッツ畢生の名演とされた決定的なバージョンと言われる。ソフトにかすれる音色で穏やかなテーマをアドリブで、その湿り気を帯びたムードを壊さぬようにしながら、これでもかというほどフレーズを繰り出してくるさまに圧倒される。
 8曲目の「Long Island Sound」から11曲目の「Crazy Chords」は1949年6月の録音で、「Long Island Sound」の軽快なテンポのナンバーでは、少し熱くなるようなプレイで、次の「Indian Summer」ではミディアムテンポながら、控えめにブローするような一幕もあって、この時に録音されたプレイは総じて熱い力が入っているような感じだ。
 スタン・ゲッツは白人による天才的なテナー奏者、クール・ジャズの創始者といったレッテルが貼られ、この録音はその初期のクール・ジャズの絶頂期の記録とか言われても、後のモダンジャズのプレイを聴きなれた耳からは、曲は短くてあっけなく終わってしまうし、肝心のゲッツの音はスカスカで弱々しい印象で、ハードさが足りないように感じられないか。クラシック音楽でいえば、マーラーやブルックナーなどの後期ロマン派の規模の大きく、長大な交響曲を聴きなれた耳でモーツァルトを聴いた時に感じる難解さに近いかもしれない。巷のジャズのガイドブックなどでも、聴きにくいとして、ゲッツの録音では、後年のボサノバをプレイしたアルバムがヒット作ということもあり、このような初期の録音は参考程度の紹介でお茶を濁しているケースが多い。

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