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2020年11月30日 (月)

伊藤亜紗ほか「見えないスポーツ図鑑」

11112_20201130204001  スポーツの臨場感を視覚障害の人に伝えるにはどうしたら良いのか。専門家を呼び、その競技の特性を考えながら身の回りの道具を使いながら近い感覚を探っていくという試み。例えば柔道なら座って手ぬぐいを握ってもらい、両端を二人の「翻訳者」が握って、各々(おのおの)がビデオを観ながら割り当てられた実際の対戦者の動きをまねる。すると言葉で説明出来なかった柔道の力の変化が触覚によってまざまざと伝わり、そもそも「柔道とは何か」という競技の持つ本質に近づいてしまうという発見は、エキサイティング。
 例えば、テニスはボールを打ち合う競技で、打つといっても野球のバッターのような打ちっ放しでお終いというのではなくて、一つ打った時が、次に打つ行為の始まりになる。つまり、打つという行為が連続している。この連続した動きをトップ・プレイヤーは、とてもいいリズムを刻む。そのリズムが心地よいのであるが、トップ・プレイヤーどうしのゲームの醍醐味は、互いに相手のリズムを崩す駆け引きが戦術的に行われるところにある。例えば、ラリーが続くときに、相手のいるところにわざと返すことがあるが、それはラリーによって相手とのリズムを生みだすことで、逆に、リズムを崩すタイミングを作り出す戦術なのだという。その駆け引きは、むしろ目をつぶって耳を澄ませているほうが分かるという。テニスの見方が変わってしまったと思う。むしろ、これまでテニスのゲームの解説や記事にたくさん触れてきて、こんな本質的なことが、なぜ教えられなかったのか、とても残念に思った。

 スポーツ観戦は、もっぱらテレビ中継で。ということは、観戦という言葉のとおり、視覚で見ているというところ。しかし、視覚以外のところで、勝負の駆け引きや身体の動きや感覚の動きが行われている。それが、この試みで、普段は見ることのできない、実は、その競技の醍醐味が垣間見える。
 また、柔道の試合は、相手に技をかけて投げ飛ばす1本の見事さに目がいってしまうが、一流の選手でも普通の選手でも、技を掛けるスピード、いわゆる技のキレ味というのは、ほとんど差がないという。では一流と、そうでない人の違いは技に持っていくプロセス、いわゆる「ストーリー」なのだという。その「ストーリー」というのは試合の中では、具体的には「組手」という動きであって、これは柔道をやったことのない人が見ていても、ほとんど分からない。相手の重心を崩すということ。これを相互に駆け引きをしている。試合は、この駆け引きでいかに有利なストーリー作りをするかによって勝敗が決まるという。相手の重心がどうなのかは、目に見えない。しかも、試合では相互に動いているので、重心は絶えず移動している。それを感覚で捉え、相手の重心を自分にとって都合のいい方向に動かしていく。目指す理想的な状態というのは、相手自身は重心が安定していると感じているのに、実は安定していない状態であり、相手を騙すようにして、そこに持っていく。そこには、相手の動きを読んだり、対応するストリーのバリエーションを臨機応変に選択できるのが名人だという。このストーリーの攻防は、経験した人は身体感覚としては分かるので、一般には退屈にも映ってしまう、組手が実は柔道の試合で一番おもしろいのだという。そうか、と納得はするが、私は、そういうものだとして、試合を見ても、その攻防は分からないだろうと思う。これは、昨日紹介した、テニスのゲームで相手のリズムを崩す戦略も、同じようにストーリー作りの要素だという。
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