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2020年12月 7日 (月)

酒井健「ロマネスクとは何か─石とぶどうの精神史」

11113_20201207212601  日本の歴史を振り返ると中世は、一般に、鎌倉時代と室町時代に区切られている。表面的には、政権をとった幕府の権力交替によるものに見える。しかし、この区切りには結構意味があって、この二つの時代は性格が大きく異なる。それは、鎌倉時代というのは気候変動があって農業生産力が大きく低下した時代だったということ。日本人の平均身長が最も低かったことが分かっているが、作物が取れないので栄養が摂取できなかった。それゆえ、伝統的な秩序が維持できなくなり、武力で土地を奪い合う社会で、不安定さから宗教がたくさん興った。これに対して室町時代になると生産力が回復してくる。生産の剰余がうまれ商業が興こり、堺などの都市が生まれる。文化的には宗教よりも芸能などが生まれてくる。
 ここで、目を転じて、欧州史では、中世というのは欧州の歴史の概念だが、日本の鎌倉、室町のような明確な時代区分はない。しかし、よくよく追いかけてみると、日本史で見られた気候変動の影響は地球規模だったはずで、ちょうど日本の鎌倉時代に相当する時代は、欧州でも不作が続いていて、その前の世紀からのゲルマン民族の大移動の余燼が残り、ローマ帝国滅亡により伝統が崩壊し、安定した国家は背成立し得なかった。ローマ以来の古代都市は崩壊し、地方諸侯が土地を奪い合った。それがカロリング朝以降に国家体制が生まれ始め、ようやく各国の単位で安定しはじめると生産が回復し始める。そういう区分を、ロマネスクとゴシックという建築様式史の概念を流用して、中世の区切りを位置付けようとしたのがこの著作。ただし、この著作で主として述べられているのは、建築とそれに付随する彫刻や壁画などの美術の様式の特徴が大半なのだが、私には、むしろそういう文化的な特徴のベースとなっている社会経済的な情勢の歴史的な変化の区分が印象的だった。
 ちなみに、文化史としてのロマネスクとゴシックの象徴的な違いは、ロマネスク様式の教会は山奥や田舎に建てられているのに対して、ゴシックの大聖堂は都市に建てられている、ということ。それは、僧侶が修業するのに田舎で自給自足の方がよかった時代と、都市で寄付を募ったほうが効率的な時代の違いということになるだろう。

 

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