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2021年1月10日 (日)

ジャズを聴く(56)~エリック・ドルフィー「ERIC DOLPHY IN EUROPE vol.2」

Jazdolphy_europe2 Don't Blame Me
Don't Blame Me (take 2)
The Way You Look Tonight  
Miss Ann (Les) 
Laura 

 

 Eric Dolphy (as,fl)
 Bent Axen (p)
 Erik Moseholm (b)
 Jorn Elniff (ds)

 

 1曲目の「Don't Blame Me」から、定型的な4ビートをベースに、そこから付かず離れずの揺らぎをもってドルフィーのフルートがミステリアスにメロディを、クネクネ捻り、からみつくようなフレージングで吹いて、後半はグルーヴィなノリを構築していくリズム隊とコンビネーションをつくる。ドルフィーのアドリブのフレーズには飛翔があったりするのだけれど、全体としては隠し味のスパイスを利かせる雰囲気で、ハード・バップの枠を形式として尊重している演奏。よく、初心者向け鑑賞ガイド本などで「At The Five Spot vol.1」を紹介されているのを目にするが、こちらの方がフリーを聴き慣れない人には、受け容れ易いのではないか。2曲目の「The Way You Look Tonight」からアルト・サックスに持ち替える。ここからは、自由に、それこそ重力を自由に操る術を持ったアルト・サックスが縦横無尽に空間をかけめぐる。冒頭からスピード全開でパーカーばりの高速アドリブは瞬時の緩みも感じさせない緊張感と猛烈なエネルギーを発散させる。ただ、この演奏には様式性というのを感じてしまう。アメリカとは異質なヨーロッパの聴衆やメンバーに囲まれて、それまで当たり前のように考える必要もなかった音楽風土とか身体性が異なることを触覚レベルで実感したのではないか。これは、聴いている私の個人的な妄想なので、事実と誤解しないでほしい。ただ、ここには、パロディ感覚というのか、高速アドリブを繰り広げていながら、「At The Five Spot vol.1」のような熱さがなくて、冷静で、むしろ、リズム・セクションとのディスコミュニケーションを感じ、形式的に譜面をなぞるように精確なプレイを続けているように見えるのだ。3曲目の「Miss Ann (Les)」でも、冒頭から全開のスピードで飛ばしていくのだけれど。「At The Five Spot vol.1」で紹介したように、ドルフィーは決してフリージャズに与していたわけではなかったけれど、それに近いところにいたし、事実、そういうスタイルの演奏をしていた。この「フリー」については「At The Five Spot vol.1」で触れたが、それが異質な文化のヨーロッパに来れば、無調のゲンダイオンガクがすでに存在し、セリーという規則までつくられている。ジャズそのものは関係ないかもしれないが、ヨーロッパではドルフィーの演っていることが必ずしも「フリー」でないことに気づいたはずだ。むしろ、アメリカにいたときはそこから抜け出そうとしたバップの方が、ヨーロッパでは新鮮に採られた可能性もあるとおもう。そこで、ドルフィーは自らのプレイに少し距離を置こうとしたように、私には見える。「At The Five Spot vol.1」にあった熱さが、ここではあまり感じられなくて、冷静さが目立つのはそれゆえではないか。ある意味、ヨーロッパという他者と出会って、ドルフィーは自身のフレーズをひとつひとつ確認しているように、ここでは見える。4曲目の「Laura」では、だから、ドルフィーのアルト・サックスが単独で複雑なラセン状の曲線を描くような、単に発散・放射するのではなくて、自身にフィードバックして回帰してくるような音楽をやろうとしたフレーズにように聞こえるのだ。それが、彼の早すぎる晩年に穏やかな音楽になっていく機縁が、このあたりの演奏で聴けるのではないか、少なくとも最初の『OUT TO LUNCH』の自己完結した世界をつくって、他のジャズとの境界を閉めてしまうようなところから、ここで扉を開くきっかけのひとつがあった、と私は勝手に想像している。

 

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