神津朝夫「知っておきたいマルクス『資本論』」
マルクスの『資本論』を、人間の社会や歴史について、その現段階である資本主義の下での人間の存在について深く考察し、広い視野から、そのなかに資本主義を位置付けたものだとしている。その点で、いわゆるマルクス主義による革命理論でも経済理論でもなく、資本主義の発生と歴史を主軸にして、あくまで『資本論』第1巻の記述に寄り添った入門書となっている。簡潔な内容でページ数も切り詰めた小さな著作だが、入門書としては、これほど丁寧に『資本論』の理論構成から外れることなく分かるように書かれていて、しかも上述の著者の意図もちゃんと反映している。
ただし、これは私の感想で、著者は自ら入門書であるとことわっているが、ここまで忠実に資本論に沿っていると、初めての人には、それほど易しいと言えるか疑問におもうところがある。例えば、「哲学入門」という本は数多あるが、そういう題名で個人的な雑事や心情を垂れ流した本は別にして、誠実に哲学の入門的な説明をしようとした本というのは、却って哲学書の原典よりも理解するのが難しい場合が多い(哲学入門には、何度も痛い目に遭わされた)。この本も、ある程度資本論の原本を読んでいて、多少の内容に親しんでいる人にとっては、ああいうことが書かれてあったのかと、資本論の内容を整理反芻して理解し直すのにとても便利で、例えば、使用価値と交換価値の説明など、マルクスの場合、流通過程すら資本の生成、商品の生産へと場面が移ると定義がその途中でブレることがあって、混乱してしまうのだが、この本では、それがすっきり整理されている。いってみれば再入門の書籍として、とてもいい本だと思う。入門書って、実は、そういう読み方が本来的なのかもしれないと思った。
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