塩田明彦監督の映画「黄泉がえり」の感想
九州、阿蘇地方のとある地域で死者が次々とそのときの姿でよみがえるという不思議な現象が発生。厚生労働省に勤務する川田(草彅剛)は、故郷でもある現地に向かい、死んだ親友、俊介の恋人だった葵(竹内結子)と再会、調査を開始。最初はSFかホラー映画のような感じで、客観的を装うロングショットを多用し、死者が帰ってくるエピソードを川田が調査していく形で淡々と描写する。それが、後半、葵が死者のよみがえり(映画の最初のところで、恋人の死から立ち直れない彼女がカウンセリングを受け、その帰り道で友人の運転する自動車に便乗する場面が、さりげなく挿入されている。映画の中頃で、その車が崖から転落してペチャンコになったのを警察が発見するシーンがある)だったことが分かる。それは、川田が現地に調査で訪れ、彼女との再会を強く望んだことで、彼女のよみがえりを無意識のうちに思ったためであることに、川田が気づく。それを機に川田は現象の観察者という立場から、当事者に変わるのだ。それとともに画面は、ロングショットからミディアムやバストショットという視線が近くに寄ったり、画面が動き始める。つまり、客観的に見ていられなくなり、参加する視線に変わるということ。それは、実は川田という登場人物だけでなく、映画を見ている観客にも、変化を促すようでもある。映画の観客は画面とは距離をおいて、映画の中で起こっていることとは無関係に、映画館の快適な椅子に座って、ポップコーンを頬張りながらスクリーンを見ている。映画とはそうして楽しむものだが、この映画は、そうではなくて画面に参加しにいらっしゃいと誘っている。そういうことを意図的に試してみることで、映画を見るといは、どういうことかを、さりげなく問いかけていると思う。そういう意味で、とても興味深い映画だとおもう。ちなみに、よみがえりの現象の種明かしのようなことは一切明かされない。
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