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2022年6月15日 (水)

呉座勇一「戦国武将、虚像と実像」

11112_20220615215701  一般に歴史というと中学や高校の暗記科目であるのか、あるいは歴史好きという人々は往々にして歴史小説や時代劇などを通じて親しんでいるのが多いのではないだろうか。一般的な日本人の歴史観は、歴史上のヒーローの人物像や行動に焦点を当てて、歴史を教訓とするといったもの、それを著者は大衆的歴史観と呼ぶ。日常の雑談の中でも、歴史に興味があるというと、好きな歴史上の人物は誰かという話題になることは、よくある。この歴史上の人物(ヒーロー)像は歴史学の分野での新資料の発見や資料解釈の定性といった研究の進展によってではなく、社会の価値観の変化によって変遷する。例えば、歴史上の人物として人気の高い織田信長は、江戸時代では徳川家康によって乗り越えられた悪役の位置づけだったのが、明治維新後は海外進出を志したということで大日本帝国の大陸政策の先駆としてのヒーローになり、戦後のバブル崩壊後の経済停滞で構造改革が叫ばれた時に、既存の体制に大胆に挑戦する改革者として評価される。そういうイメージの変化の触媒となって機能したのが、歴史家ではなく江戸時代であれば儒学のような思想家たちの言説や近代以降は小説家、例えば戦前なら徳富蘇峰、戦後なら司馬遼太郎といった人々。なお、我々の世代では、「太郎、次郎(新田次郎)、三郎(城山三郎)」と人気歴史小説家だった司馬遼太郎のいわゆる司馬史観は大正時代の徳富蘇峰の「近世日本国民史」に拠っているところが大きいうネタバレを暴露しているのも微笑ましい。
 そこで、著者は日本における排外主義的・歴史修正主義的な言説、著者はそれを歴史修正主義と呼んでいるが、そこでの歴史的事実の捏造・歪曲や史料的根拠のない奇説・珍説に支えられていて、それは提唱者が独自に想像を巡らせ妄想を書き連ねているように見えるが、実は、その内容は江戸時代の講談・軍記物に影響を受けていたり、徳富蘇峰や司馬遼太郎の焼き直しだったりする。つまり、大衆的歴史観に重なるところが多いという。著者は実証主義に立つ歴史学者として、そこに警鐘をならしてはいるが、しかし、実証主義の歴史学も大衆的歴史観とは無縁ではなく、その基礎をなす社会の価値観をある程度共有しているという自戒しているところに好感を持った。
 まあ、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、真田幸村といったヒーローたちが各時代で大衆にどのように受け取られてきたかという変遷を追いかけるだけでも興味深い。

 

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