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2022年6月 9日 (木)

猪木正道「新版 増補 共産主義の系譜」

11112_20220609221601  原著の刊行が1949年で、当時の言葉では非マルクス陣営(平成生まれの人には大学の経済学部がまるまるマルクス『資本論』を学ぶものだったり、マルクスの学説を基礎にした政治学や法律学が学会の大きな潮流だったことなど想像できないかもしれない)、現在であれば保守的傾向のいわゆるオールドリベラリストによるマルクス思想史。その後1984年まで数回増補されたが、メインは原著によるマルクスに始まり、その同時代のドイツの社会主義運動(ラサールやドイツ社会民主党)、ロシア革命(レーニンからトロツキーやスターリンに至る)までの、いわゆるマルクス=レーニン主義の系譜の記述で、この著作の特徴は、それを外側から俯瞰的に眺めたところにある。言葉遣いは、少し古臭くて堅苦しいところがあるが、マルクスに触れたことがなくて、社会主義とか共産主義に馴染みのないような、今の若い人には、だいたいこんなものだという概観を掴むのには便利な著作になっていると思う。
 思い切り単純化すれば、著者の言うマルクス主義の革命理論の特徴は次の二つだということになる。ひとつはフォイエルバッハなどのヘーゲル左派の自由の追求を政治・経済の批判に推し進め、人間の自己疎外の原因は資本主義にあるとし、生産手段の私有を否定することによって人間の完全な解放を実現しようとする、ちょっと宗教みたいなところのあるユートピア思想。もうひとつは、1840年代のドイツで実際に革命を起こすための理論で、先進国イギリスは市民革命による民主主義が進んだのに対し、ドイツは後進国では専制主義が残っているので、プロレタリアートという人間の自己疎外を体現した新興階級によって革命がなされるとした。しかし、このような見通しは、マルクスの死後、ドイツの上からの近代化による経済成長でプロレタリアートの階級にも富のおこぼれが分配されると革命気運がポシャッてしまった。しかし、このような資本主義後進国の革命理論は、ドイツよりも、もっと後進国のロシアで、レーニンによって、市民階級が形成されていない社会で大多数を占める農民を都市の労働者が引っ張ることによって革命を起こすという修正がなされ、それがロシア革命で実現させた。そういうマルクス主義の革命思想の系譜をものがたりのように提示してみせた。
 ここで、面白いと思ったのは、上述のマルクス主義の革命理論の二つ目の特徴の説明の中で、ドイツで革命を起こすために、プロレタリアートという階級を思いついたという指摘。つまり、マルクスは、実際の資本主義経済社会を分析していてそういう階級を発見したのではなく、革命の主体としてプロレタリアートというアイディアを思いついて、それを成り立たせるために資本主義とか自己疎外という理屈を跡付けてつくりあげたという指摘。これは極端な言い方ではあるが、そういう、それまでにない視点で経済社会をみていると、いわゆるマルクス主義の経済理論ができてくるというのは、すごくよく分かる。これは、著者の立ち位置で、はじめて可能な指摘だと思う。

 

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