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2022年7月12日 (火)

リチャード・パワーズ「黄金虫変奏曲」

11112_20220712212301  邦題は『黄金虫変奏曲』だが、原題は「The Gold Bug Variations」で、JSバッハのゴルトベルク変奏曲(Goldberg Variations)とエドガー・アラン・ポーの短編小説「黄金虫(The Gold Bug) 」を掛け合わせた駄洒落になっている。「黄金虫」は暗号解読の物語で、この主人公の一人レスラーが分子遺伝学者で遺伝子のDNAの4つの塩基の配列を解読することに従事するのがこの小説の基点になっている。ちなみにDNAの配列は64通りで、これはゴルトベルク変奏曲が曲の最初と最後のアリアと30の変奏という32の部分で出来ていて、ちょうど64の半分。しかも、ゴルトベルク変奏曲は低音部の4つの音から成るフレーズがテーマとして繰り返されるのが基本構造になっている。この小説は32章の構成で、ゴルトベルク変奏曲に擬えられている。されそして、この小説の主人公は4人の人物。また、「The Gold Bug Variations」の「 Bug 」はバグで、いわゆるコンピュータ・ソフトのバグのことで、レスラーはコンピュータ・エンジニアになり、コンピュータ言語の解読と操作に従事している。
 内容は、1957年、遺伝暗号の解読を目指す若き生化学者スチュアート・レスラーに、一人の女性がゴルトベルク変奏曲のレコードを手渡す。25年後、公立図書館の司書ジャン・オデイは、魅力的な青年フランク・トッドから、スチュアート・レスラーという人物を調べてくれという奇妙なリサーチの依頼を受ける。レスラーは夜ごとゴルトベルクを聴きながら凡庸なコンピュータ・アルゴリズムのお守りをしている、恐ろしく知的で孤独な人物。長い時を隔てて存在する二組の恋愛が、互いを反復し、変奏しながら二重螺旋のように絡み合う。ちなみに、この小説の舞台となる1950年代と1980年代は、グレン・グールドのゴルトベルク変奏曲の旧盤と新盤の録音時という。パズル合わせが後から後から出てくる。
 そういうたくさんのものが詰め込まれていて、宝探しのように読む、知的なパズルゲームのようにして読むと面白いかもしれない。しかし、32章に分けられた物語が1957年と1982年をアトランダムに行ったり来たりして、今どちらの物語なのかなかなか分からないので、物語を追いかけにくい。そして、語り口がニューヨーカー誌のお洒落な短編小説のような全部を語らないほのめかしで、短編なら集中できるのだが、上下2段組み850ページでやられると、話はとぶわ、はっきり言わずほのめかしばかりで、物語がどうなっているのか追いかけられなくなって、読むのに大変苦労した。おそらく、ニューヨーカーで原語表現に慣れ親しんだ人なら親しめると思うが、翻訳の日本語で読むのは辛い。リチャード・パワーズは『われらが唄う時』とか『オルフェオ』といった音楽を題材にした物語性の強い作品は、とても好きなので、題名から期待していた。作者の若書きで意欲は分かるが、ちょっとね?だった。

 

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