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2022年8月26日 (金)

猪木正道「ロシア革命史─社会思想史的研究」

11112_20220826215601  政治学者猪木正道が敗戦後間もない1946年にロシア革命を論じた著作。ロシア革命は2月革命だの10月革命だの、あるいはボルシェビキとかメンシェビキとかいろいろややこしいのだが、高校時代に習った世界史では、フランス革命は詳しく教わったのに比べて、ロシア革命はよく教わらなかった。その詳しいところを、思想史的な面から、分かりやすく教えてくれる著作。要旨としては、ロシア革命がロシアの後進性を背景に、皇帝統治のツァーリズムが第一次世界大戦で崩壊した好機をとらえたマルクス主義の異端(正確には、第二インター的「科学的社会主義」の異端)レーニンの指導によって実現されたこと、しかし、期待されたヨーロッパ革命は失敗し、ソヴィエト国家は後進性を帯びたまま工業化、農業集団化を強行し、マルクスの言う社会主義とはほど遠い独裁国家(経済的には国家資本主義、政治的には全体主義)になってしまったこと、それでもロシア革命の人類解放史上の意義はあり、その後の進歩も否定できず、ソ連は撲滅の対象ではなく、否が応でも共存していく相手であること、とまとめられる。
 なかでも、この著作の白眉は、1905年革命の時と1917年革命の時のレーニンの革命思想をトロツキーの思想と対比しながら分析し、浮き彫りにした点にあると思う。1905年の時点では、ブルジョア民主主義革命だからブルジョアジーに任せて待機するのではなく(彼らも幼弱だから完遂できない)、労働者が農民(後進国ゆえ多数かつ貧困)と同盟して主導するという主体的な革命論をとり、1917年4月テーゼでは、労農民主革命を「社会主義の控えの間」から社会主義革命に転化するには少なくともヨーロッパ革命の支援が必要だとする、トロツキーの永続革命論を受け入れた、これまた主体的な革命論を打ち立てた。というレーニンの思想のドラマティックな展開。この著作が書かれた当時の状況を考えると、戦後民主化期でソ連と日本共産党に対する知識人の支持が強く、スターリンは英雄であり、トロツキーは「反革命の頭目」であり、そのトロツキーをレーニンと並べて論じるということは、知識人層から総スカンに遭うおそれのあることで、現代のSNSで炎上するとは比較にならないほどの酷い状況に追い込まれるかもしれないことを、堂々と論じている。著者はまた、「原始マルクス主義」評価の箇所で、ヘーゲルやフォイエルバッハを読み込んだ上でのマルクス、エンゲルスの説を解説していて、それは1956年のスターリン批判以降の疎外論の「発見」や「初期マルクス」評価を先取りしたものと言えると思う。
 また、最近では、ほとんど忘れられているローザ・ルクセンブルグがレーニンと対照させるために取り上げられていたり、「主体性」という概念が使われていたのは主体性論争の梅本克己を思わせたり、と、現代でも、この人たちは取り上げられてもいいのではないかと思ったりした。
あと、文庫のロシア・アバンギャルド風のカバーデザインがいい。

 

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