Peter Gabriel「III」
ジェネシスの初代ボーカル、ピーター・ガブリエルの1980年リリースの第3作目のアルバム。70年代前半にはその名称のとおりプログレッシブ(進歩的)であったプログレは、形骸化し様式的なスタイルの演奏の繰り返しに堕していた。ビック・ネームは解散したり活動を停止し、70年代後半のパンク・ニューウェーブから実験的なバンドも出てくるのを横目に、活動を続けたバンドは商業的には成功したのもあったが、サウンドは大掛かりだが、それはこけおどしで、たんに耳に心地よいだけのBGMとほとんど変わらないものとなっていた。そのなかで、実験的な姿勢を持ち続けた一部の例外が、ピーター・ガブリエルやケイト・ブッシュらで、マニアックに熱狂的な信奉者がついていたと思う。このアルバムは、特徴的なドラムのサウンドと異常なほどのテンションの高さで、彼の作品の中でも突出している。1曲目のバスドラムやスネアの音が残響を途中でぶった切ったような鳴り方のゲートエコーという音響は、ドスンドスンとはらわたの底を叩かれるようで、そこに地底から響くようなガブリエルのボーカルが不気味に湧き上がってくるように聞こえてくる。聴く者を不安に陥れ、野蛮で畏れに満ちた世界に叩き込まれるような錯覚に襲われる。形容するとしたら“カッコイイ!”としか言えないのだ。彼は、この数年後の「SO」が有名だが、個人的には、この「Ⅲ」ほどのインパクトはなかった。
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