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2022年9月 2日 (金)

大嶋義実「演奏家が語る音楽の哲学」

11112_20220902212401  現役のフルート奏者が、長年にわたる演奏活動と音大教師としての教育活動の折々で考えたこと、感じたことを業界紙に綴った随筆のなかから、音楽についての書いたものをピックアップしてまとめたもの。音楽家が身体感覚として感じたことをアトランダムに言葉にしたもの、と言えようか。書名は「音楽の哲学」としているが、エッセイというよりは随筆に近いと思う。著者が語っている以上に言葉が語ってしまっている印象で、そこで語られている言葉は、個別に読む人なりに深読みを誘う。それらは、音楽について語る際のネタとして使える、と思った。
 なかで印象に残ったのは、次のようなエピソード。今年98歳になるおばあさんが少女時代、何かと質問や用事を作っては、職員室や校長室に出入りしていた。就職してからは、早朝誰もいない時間に出勤し、率先して重役たちの部屋を掃除してまわった。それは、当時ようやく普及し始めたラジオの放送を聴くためだった。職員室や校長室ではラジオが聞けた。運が良ければそのラジオから音楽を聴くことができた。また、会社では重役室にはラジオが備え付けられ、掃除を始める際にラジオのスイッチを入れた。そこで音楽を聴くことができるのが、彼女は楽しみだった。先生や会社の役員にしてみれば、彼女にそんな目的があったとはつゆ知らず、責任感の強い勉強熱心な生徒であり、気の利く社員と受け取られた。それで、彼女は顕彰に値する優秀かつ勤勉な人物と評価されてしまった。卒業時には表彰され、会社では給料とは別に重役たちからプレゼントを贈られた。彼女は、当時の雑音混じりのラジオの貧弱な音でも、たとえ何の曲かもわからなくても、音楽に悦びを感じ、そのために、敷居が高い職員室に入ったり、朝早起きして出勤するのが苦にならなかった。おそらく、教師や会社の重役には彼女の自発性と嬉しげに様子は、誤解とはいえ伝わったのだろう。そういう音楽の悦びがなんとなく分かる。

 

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