猪木正道「軍国日本の興亡─日清戦争から日中戦争へ」
明治中期の日清戦争の頃から太平洋戦争の開戦の頃まで、日本の近代化と軍国主義化の歴史を概観する。著者の視点の面白いところは、ここで概観している軍国主義は、著者のいう戦後の空想的平和主義と裏表の関係にあるというところ。両者は、考え方が独善的で、国際的視野を欠いて一国主義的であることなどまるで双生児のようによく似ているという。一方、戦前の軍国主義が軍事的価値、軍事力そして軍人を過大評価するものであったのに対する反動が、戦後の平和主義で軍事的価値を過小評価して非軍事化を進めた。どちらも、バランスを欠いた偏りであるとして、現代(この著作の執筆は1995年)の、この偏りを認識するためには、この鏡面といえる戦前の軍国主義を見ていくのが有益であるという。著者の立場は、保守的な自由主義者というところだと思うが、こういう視点はありだと思う。実際のところ、日本の近代思想史の特徴的な現象としてある「転向」というのは、そういう視点からは納得できると思う。例えば、戦前の共産党幹部の佐野学や鍋山貞親といった人々が転向すると国家主義者になってしまったのは、いわば右翼と左翼が裏表の関係にあり共通のものの表われ方が対照的であることの現われだという。
また、軍国主義化の概観としても、現在からみれば、情報の古さを感じるところがあるが、要領よくまとまっていて、偏りは目立たないので、通史として読み易いと思う。
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