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2022年10月28日 (金)

池田純一「〈未来〉のつくり方─シリコンバレーの航海する精神」

11112_20221028220601  イノベーションの聖地であるシリコンバレーや、それを支えるアメリカ社会が、なぜ未来を語り続けるのか、を切り口にした、いうならばアメリカ論。彼らが考える未来とは、自ずからやって来るものではなく、自分たちで築くものだという。アメリカはヨーロッパのように長い歴史を背景とした社会経済や文化の基盤の上に立ったものではなく、新大陸という荒野を移民として移り住んだ人々が開拓してつくってきた社会で、そこにはDIYや独立独歩の精神が強い。ヨーロッパのような過去の蓄積の上に未来が開けるというより、ゼロから自分で未来を開拓するということが経験から身体化している。また、様々な国からの移民によってつくられたので、多様なルーツを持つ民族文化が共存し、文化的に多元的な社会であり、多様なものを許容する社会となった。そこでは、求心的というより分散的、独立独歩の個人を許容する、具体的には、個人的な未来をつくることが尊重され、それが社会の未来として許容される。例えば、町や集落は、荒野に、ここに町を作ろうと人々が集まって作られたものが多い。社会、そして、国もその延長で、ヨーロッパのように、古くから町がある、というのではない。
 とはいっても、アメリカの開拓はヨーロッパ古代の開拓のような原始的な技術でではなく、産業革命の時期に開拓が行われたので最先端のテクノロジーを使ったものだった。その経験は、テクノロジー全般に好意的な心性が形成された。それは、通常の「科学→技術」のルートではなく「技術→科学」というルートがアメリカでは目立つ。まずは取り組んでみて、できてしまってからその後に、なぜできたのかを考える。やりながら考えるというルート。ここでは経験が優先される。そこには実験精神、試行精神が根付くこととなった。言い換えると「実践→技術→理論」というルート。それが、個人で実験できる範囲を広げるパーソナル・テクノロジー、それはシリコンバレーの個人のガレージ・ラボにつながり、その例としてムーアの法則。
 ムーアの法則とは、コンピュータの演算能力は18ヶ月で2倍になるというもの。それは、10年で100倍、20年で1万倍になるということ。この法則によって情報技術は指数関数的な成長が約束された。その見通しがさらなる投資を呼び込み、イノベーションのサイクルを生みだした。とはいえ、これは法則と言えるのか。これを言ったムーアは、たまたま最初の18ヶ月でそうなったから言ってみたようなものだったらしい。それを、続く人々が、この法則を崩さないような開発を続けたからで、法則というより、技術者の研究の行動を律する目標、もっというと呪縛(強迫観念)となり、実現させてしまった。その結果、未来は計測可能な予定となり、それゆえ、皆で共有できる機会や可能性となった。そけは、昨日述べた、アメリカがもともと持っていた実験精神、試行精神、言い換えると「実践→技術→理論」を現代の情報産業で具体的に実現させたのだった。
 ムーアの法則から派生したのがテクニウムという概念。人類が扱ってきたテクノジーという現象の総体、即ち文明、それ自体が自発的に人間に働きかけ、個々のテクノジーを発展させたというもの。つまり、テクノロジーは自律的に進化する。これにより、ムーアの法則は法則となる。つり、テクノロジーが自律的に進化するとすれば、ムーアの法則はテクノロジーの呼びかけに応じて人間が応えた結果ということになる。例えば、ムーアの法則に従って、単体のCPUの演算能力が累乗的に増大し、それらが相互に接続されることで、ネットワーク上の個々のコンピュータの演算能力が増加していく。こうして、ムーアの法則は真理として扱われるようになり、実際に現実の世界を変容させ、結果として真理であることを再認させる。それは、シリコンバレーの住人たちには神話となり、人々の行動に影響を与えていった。
一方、法則となると、それに沿うように未来を拓くことは、法則に従って進む、地図とコンパスで迷わず正しいルートを見つけていく航海術が有効となる。それは、シリコンバレーの事業への投資や事業推進は、賭けというより合理的な計画達成に近いものとなる。それは、開発だけでなく投資や事業を招きやすくなる。
 IT関連のイノベーションや、グーグル、フェイスブックやアマゾンといった企業活動などを事例としながらアメリカの知られざる側面を解き明かそうとする一冊になっている。

 

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