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2022年12月 4日 (日)

青柳いづみこ「ショパンコンクール見聞録─革命を起こした若きピアニストたち」

11112_20221204182301  ピアニストによるショパンコンクールの新書1冊をまるまるのレポート。入賞者がそれぞれ、どのような演奏をしていたのか、その特徴を言葉にしてくれているのがありがたい。新聞やニュースのレポートは、入賞者について演奏そのものよりも、伝記的なエピソードの紹介ばかりで、それと違って、この著作のレポートはピアノの音が聞こえてくるようだった。
 そして、今回のコンクールの特徴として挙げられている事項が興味深い。そもそも、ショパンコンクールは、19世紀の過度にロマンチックだったり名人芸的なショパン演奏に対して、著しく歪められたショパン演奏を本来のあるべき姿に戻す趣旨で創設されたものだったという。当初の本来あるべきショパン演奏は、コンクールが始められた20世紀はじめの新即物主義の影響をうけて、楽譜に忠実というのが基本的な姿勢だった。しかし、今回のコンクールはショパンの従来からの本来あるべき演奏に変化が生じたという。その理由として二点をあげている。ひとつは、同じ会場で前に開催されたショパン国際ピリオド楽器コンクールの影響をあげる。ショパンの生きていた18世紀は今とは異なる演奏がされていた。例えば、ショパン自身が書いた「ピアノ奏法」の草稿や直弟子のメモに書かれた内容は今のスタンダードな演奏法とは違ったものだったということ。例えば、ショパン自身は良い趣味をものなら楽譜を自由に変えてもいいとしていたという。また、18世紀のピアノは20世紀のピアノとは違うものだった。例えば、20世紀のピアノではダブルアクション機構により多彩な音の表現が可能となるが、18世紀のピアノはシングルアクションで、そのため指先でコントロールするフィンガーテクニックが中心となる。それで現れてくる演奏は楽譜にない装飾的パッセージが聞こえてきたり、ルバートもメロディと伴奏のタイミングがずらして弾かれたりしたという。そういうピリオド楽器コンクールの出場者や審査員が、ショパンコンクールにも参加している。そして、ふたつ目の理由は、コンクールの動画配信と録音による予備審査が行われたことだ。まず、コンクール会場でしか演奏に触れられなかったのが、全世界の人々がユーチューブで演奏を聴き、多数の人が感想を書き込むことができるようになった。そこで、審査員が会場で限られた聴衆と共に実演を聴いて評価したことに対して、ネットを通じて全世界の人が、意見を言えるようになった。意見の中には、従来の伝統にとらわれない多様なものだった。そのことは、審査員による審査に影響が生じた。
 実際に、今回のコンクールの優勝者をはじめとする上位入賞者には、従来の演奏の伝統を重視するタイプのピアニストではなく、それぞれの個性にしたがって演奏するタイプばかりだったという。なお、審査委員長のダンタイソンは、そういう個性的な演奏に寛容な人だったことも、原因のひとつではないかとも指摘している。ダンタイソン自身は、それほど個性的な演奏をする人ではないのに、それが面白いところかもしれない。
でも、一番読みごたえがあったのは、入賞者の演奏を具体的に、この人のマズルカはこうだったというように書いているところだった。

 

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