源河亨「『美味しい』とは何か─食からひもとく美学入門」(4)~第4章 知識と楽しみ
味やおいしさは舌だけで評価されるべきだという純粋主義は誤りであると著者は主張する。その理由は知識や情報から影響されない「無垢な舌」は存在しないし、一切の知識や情報を無視して評価を下すことは現実的に不可能だからだ。とはいっても、知識や情報がなければ食を楽しめないと言っているわけではなく、知識などなくても楽しめる要素はあるので、それゆえ知識を増やして食の楽しみを増やしたくなると主張する。
情報や知識は無用といっても、日ごろ食べている料理が安全である、安心して食べられるというのは、安全という知識があって、いちいち安全かどうかを吟味することなく食べている。この場合の安全であるという知識はおいしさには無用という知識の中には含まれていない。つまり、純粋主義とはいっても知識のすべて排除できないのだ。また、例えば、ラーメンを食べているときはラーメンが何であるという知識をもとに食べている。そして、それをおいしいというとき、ラーメンとしておいしいと感じる。私たちが感じるというのは知識の体系の中で感じるという点は否定できない。
ただし、純粋主義を主張したい気持ちもわかる。他人がどう言ったという評判ばかり気にして、自分で味わうことをしない風潮への批判には共感できる点はある。そこで著者は、私たちが何かを食べているとき、楽しまれているものが二つあるという。ひとつは自分が食べている対象が持つ価値であり、もうひとつは食べるという経験がもつ価値であるという。そして、知識が少ない時に楽しまれるのは後者であるという。この二つの価値を混同しなければ、一概に知識は無用と言わなくてもいいのではないか。それぞれに楽しみはあると著者は主張する。
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