貞包英之「消費社会を問いなおす」
消費社会という、例えばバブル経済の日本のような豊かで贅沢な浪費を重ねていたものを連想してしまうが、著者はバブル経済が崩壊し、デフレ経済の下でも消費社会は拡大し続けたという。前者のイメージが量的な消費であるならば、著者の言う消費社会は、いわば質的なもの。それこそが消費社会の本質であるという。デフレ経済の下で、誰もが豊かと言うのではなくなり、持てる人とそうでない人という経済的な格差が大きくなったが、例えば、ダイソーをはじめとした100円ショップには、富裕層の人々がけっこう買い物をしていたという。そこには、コストパフォーマンス、つまり、価格に応じた価値を得るという「賢い」消費をすることが買い物の動機となっていたからだという。そこには、豊かさとは別の価値基準があった。消費というのは、安価でもそれなりの満足感を得ることができる。というのも、消費社会は少なくとも数百年に及ぶ長い歴史的過程としてあり、短期の経済不況などですぐに揺らいでしまうようなものではなかったからだ。そういうことを踏まえると、消費社会は、単に経済的に豊かな経済社会とイコールではない。豊かさは消費社会の専売特許ではなく、共産主義社会であれ前世紀の封建制社会であれ、時代の技術水準の範囲内で一定の豊かさを人々に許してきた。むしろ、消費社会の本質は、それが私的な選択を許し、個々の好みを尊重し、結果としての多様性を促進していくことにある。そのことを著者はさまざまな事例を紹介しながら明らかにしていく。その事例が、本筋の消費社会の議論よりも面白い。この事例は、蘊蓄のおしゃべりのネタとして使えるので、そういう点でも役に立つ。
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