高宮利行「西洋書物史への扉」
書名に惹かれて購入した本。愛書家とかビブロフィリオなどというと澁澤龍彦や紀田順一郎といった人々の随筆を数多く読んでいる身としては、岩波新書でもあるし、ということで中身を見ずに購入した。著者は稀覯書を求めたりする愛書家であるようだし、書物史を研究している学者でもあるようで、「巻物から冊子へ、音読から黙読へ、写本から印刷本へ。ヨーロッパにおける本の歴史を様々な角度から紹介する」というキャッチフレーズを掲げているようで、書物の歴史をめぐる薀蓄が語られていて、面白そうではある。例えば、古代のオリエント世界で紙が発明されていない中で、書物はエジプトではパピルス、ローマでは樹皮を薄く1~3ミリ切った板(これがリブロ=本の語源)、アッシリアの粘土板(←楔形文字)など、様々の形が並立していた。文字が書かれた面に傷がついたりしないために、パピルスは巻物となり、板は二つ折りにされたのが冊子の形の始まりになった。あるいは、印刷製本が始まり、書物の生産量が増えたが、識字率は低かったので、読者は増えず、一人一人の読者の蔵書数が増えたのだという(写本しかなかった時代では、有名な蔵書家といっても、蔵書数は数十冊がせいぜいだった)。そういう薀蓄は、それなりに興味深い。しかし、こんなおいしいネタだったら、もっと深掘りしたり、話が広がるだろうに、思う。このネタが披露されると、はい次と、別の話題に移ってしまうのが勿体ない。材料だけ出されて、料理されていないという印象。
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