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2024年3月27日 (水)

ジョセフ・ヒース「資本主義が嫌いな人のための経済学」(13)~第11章 富の共有─なぜ資本主義はごく少数の資本家しか生みださないか

 金持ちはのらくら過ごして投資で快適に暮らせることは多くの人を苛立たせる。このような人々の見方によれば、資本主義の問題は資本家をわずかしか生みださないことにある。生活水準を維持したかったら、生産するものをすべては消費できない。毎日の経済活動に使う工場やコンピュータを取り替えるための投資も必要だ。したがって、個人消費の形で支出するよりやや多く、労働力の形で投入しなければならない。このため最も簡単な方法は利子という形で貯蓄に対するインセンティブを個人に与えることだ。資本家は自己属性的に消費を節欲するおかげで利益を得る資格を与えられている。その節約した金に利子を付けて他人に貸す行為は社会的に有益なサービスでもある。彼らのような節欲の能力は思ったほど世間には広まっていない。
 多くの人は貧困は金の不足以外のことから起こるとは頑なに信じようとしない。そして、直接の再配分が社会福祉に多大な利益をもたらす力を過大に評価している。貧困者はただ金銭の不足だけで苦しんでいるのではない。貧困家庭の主な問題として資金管理能力のなさを著者は指摘する。貧困者が暮らし向きのいい人より基本的必需品に多くを支払うはめに陥るのはよくあることだ。そして、敷金を払えない貧困者はアパートを借りることができず、結局のところ割高な日払いのモーテルで暮らすことになる。このようなまとまった額を前払いするとか、長期的な支払ができるためにはある程度の貯蓄が必要になる。その貯えがないため割高な消費から抜け出せないこともある。特に開発途上国では、こういう場合、マイクロクレジットの実施で暮らし向きが大幅に向上したのだった。
 しかし、貧困者の資金管理能力のなさは消費のこらえ性のなさという特徴で表われる。経済学にはそれを表わす割引関数というツールがある。人は一般に将来より現在の満足を選好するという事実を説明するためのツールだ。楽しいことが今日あるのと一週間後にあるのとで、他の条件がすべて同じなら、たいていの人は今日の方を選ぶ。これは未来の不確実さを表しているが、純粋時間選好も表わしている。人は本来こらえ性がないので、あとじゃなくて今の幸せが欲しい。そこで、現在の満足を選好する人を特定の時間まで延期するように説得するには、将来にはもっと大きな満足があると約束するしかない。そのため、預金に利息を付けることが必要と考えられている。利率が゜10%なら現在の100ドルと1年後110ドルは価値が同じだということになる。これを証して1年後110ドルの現在割引価値は100ドルであるという。それが割引関数だ。ちょうどそれは金利と正反対というわけだ。また、このような経済学の金利モデルでは人の遅延の回避の傾向は一定だという前提の上に立っているが、人の未来に対する態度には歪みがある。つまり、きわめて近い未来の遅延はとても大きく、まだまだ先の未来の遅延は重要度が低くなる。これを双曲割引と呼ぶ。ひとは近視眼的な行動する傾向があることを表わしている。これはまた、意志の弱さの表れでもある。このことと、貧困者のこらえ性のなさとが関係しているのは明らかだ。
 これに対して、左派の反応は教育の拡充が万能薬として提案されることが多い。しかし、自分から学ぼうとしない人に教育することはできない。情報を与えることはできても、それに注意を払わせることはできない。教育を身につけるためには、それを受け入れる意思があることが前提となる。この解決策は、問題がすでに解決したことを前提にしている。
 双曲割引の正しい理解は、昔ながら自由と温情主義の対立をかなり解消するのに役立つ。国民に自己の最善の利益になるように振る舞うことを強いる社会政策は、過保護国家の高圧的な介入というより、むしろ個人が心から喜んで支持するであろう自己拘束的な戦略だと理解できる。

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