ジョセフ・ヒース「資本主義が嫌いな人のための経済学」(15)~エピローグ
著者は読者に向けて、この本で資本主義を嫌う人に、もっと真剣に経済学を受けとめるように促してきたと言う。経済学は貧困、不平等、社会的疎外等の問題に簡単な答えを与えてくれなどしない。経済学の研究は、善意の人たちが提案した簡単な解決法の多くが成功する見込みがないと証明することで、しばしば事態を紛糾させる。本書では、経済的な疑問について考えるときに起こる抽象的な誤りに終点を置いて論じてきた。その誤りは日常の政治に浸透している。
謬見が経済学の分野でとくに根深い。それは、人は複雑なことをよく理解できないからである。私たちはすべてのものが他のすべてに依存している事実を無視する。人が環境の変化に応じて行動を考えることを忘れてしまう。すぐにでなくても長期的に帳尻を合わせねばならないことという事実を見落としてしまう。複雑な状況に対応するために単純な議論を提示するのだ。右派は、市場が最高最善の世界を、実践的に達成し得る最良の世界をもたらすと、信じさせようとする。競争は普遍的な万能薬として提示され、政府の非効率は実証的な証拠に訴えるのではなく、政府がしていることは非効率だという想像上の基本原理に従って非難される。これに対して、左派は経済に認められるどんな不公平でも、取引が行われる条件を直接修正するように命令を下すなり、法改正するなりすれば解決できると信じさせようとする。政府にすっかり任せればいいという。このような手っ取り早い解決法などない。と最後に著者は言う。
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