北欧の神秘―ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの絵画(5)~第3章 都市─現実世界を描く
画家たちが自然の風景や伝説の物語から現実の世界に目を向けたということでしょうか。
アウグスト・ストリンドバリの「街」という作品です。ストリンドバリは有名な劇作家。日本でも、イプセンと並んで評価されていた。彼は、絵は素人で、主に執筆が困難になった危機の時期に描いたといいます。この作品は「街」といいながら、画面の7割方が雲で、キャンバス上に絵の具の厚い層が置かれています。パレットナイフで描かれているそうです。遠くに町があり、その一番高い建物が水面に映っている風景画です。この絵は高い空と雲の暗い色が大半を占め、ここだけを離れたところから眺めてみれば水墨画にも見えてきます。そして、白、黒、グレーの配色で、明るく照らされた街の木々が緑で描かれています。この雲はリアルというより表現主義的で、何らかの心情を象徴しているようにも見えます。例えば、同じような、画面中央に町が上下の境界線のようにあって上半分は曇りの空、下半分は海と いう構成の作品、17世紀オランダの風景画家ロイスダールの「北西から見たデフェンデルの眺望」と比べて見てください。画面の大部分は雲が湧いている空と手前の海ですが、あくまでも背景で、中心は町の風景です。町は精緻に詳しく描かれているのに対して、空の描き方は少し粗く控えめです。また、空と海は明確に区分けされています。それに対して、この「街」は街の夜景は遠景でぼんやりして、灯火や木々が黄や緑の点のように見えます。むしろ雲が前景のようになっていて、雲の方が絵の具の塗が厚いし、ダイナミックな動感があります。そして、画面下部の海は暗く波打っている様子は、上半分のダイナミックな雲と同じように描かれていて、海と雲は繋がっているようにも見えます。作品の中心は雲、そして海であることは明白です。画面の大部分を占める雲と海は暗く不安定で、心の不安とか動揺が全体で激しく渦巻いている。そのはるか奥の方にほっとするような街の灯りや木々の緑が、ぼんやりとかすんでいるのです。
ムンクの「ベランダにて」は、「フィヨルドの冬」よりは面白かったが、今日はムンクもありました、でよいと思います。
あとは定番のゴッホの「ひまわり」で、結局、尻すぼみだったか。ずっと以前、東京ステイションギャラリーでの「北欧の風景」でダールを何枚も見た時の印象がまだ残っていて、それを覆すところまではいかなかったようです。
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