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2024年7月19日 (金)

西山松之助「芸─秘伝伝授の世界」(4)~第3章 秘伝の相伝

 17世紀において、古代以来のさまざまな芸能の分野に芸道文化社会が成立し、それら諸芸の各分野に、それぞれの芸の「型」というものが定着し、その「型」を演じる実技の実演法と、その「型」の美的哲学的理論を体系化した秘伝が成立した。これらは秘伝書あるいは文字化できない口伝として、一人だけ跡を継ぐ一子相伝というかたちで秘伝として成立した。また、このような秘伝書は伝授をするための証明書というものになった。そして、この秘伝の相伝は江戸後期には大きく発展する。それが家元制度の成立である。一子相伝により、完全相伝というすべてのものを相伝するという形から、家元を頂点する多くの段階のひな壇式の序列をもつ相伝の体系に変容した。すなわち、伝授の体系が初歩の人から、少し収斂を積んだ人、技がかなり発達した人、そしてあらゆることに上達し修業を卒業しそうな人というかたちで、初伝、中伝、奥伝そして皆伝という伝授の段階的体系が出来上がった。
 戦国時代から天下統一をした豊臣秀吉や徳川家康のような天下人の権威をそれぞれの芸道の分野でも、家元が擬するようにして芸の権威化が進められた。そこで秘伝の相伝伝授が、単に芸を遊びとして行うことを越えて、属性の日常の生活の序列のうえでは段階的に上下の差別で格付けをされているのが、そういう俗世の差別世界の中で他の人々よりも上位に進展して、その上位の世界に上昇転化することらよって、日常の下位の下層身分を解消し、自己解放する。つまり、身分制の枠内にあって、その枠をなくすることに大きく役立っていくという役割を果たした。
そこから、次第に形式化し、秘伝の持つ社会的役割あるいは伝受料の経済的な役割が強くなり、芸道において身分の上昇を図るために、意図的に経済的なもので買い求められるという弊害も現われる。
 これには家元制度と密接にかかわっている。一子相伝といえども、実質的には家元の家人が代々相伝を受け、家元が実質的には免許状の発行権限を独占し、家元の高弟たちは弟子をとって教えたり、指導することはできても、免許状を発行することはできない。伝授は家元しかできないというような制度化されて行った。つまり、高弟たちは弟子に教える教授権のみを与えられ、家元家芸の拡大再生産機関となっていった。つまり、家元の直弟子、また弟子、そのまた弟子というような何段階もの重層的な構造ができ、その末端には非常に多くの文化人口が存在していた。これは、庶民にとっては、文化的に身分を上昇転化し、世俗を断絶し、家元により権威づけられる高度な文化社会で文化人としての地位を獲得できることになる。

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