川北稔「砂糖の世界史」
10年前に読んだ本の再読。砂糖というひとつの商品を通じて、近代の世界史を見ていこうという試み。原料であるサトウキビの栽培や砂糖の精製には、労働力として奴隷が調達され、イギリス、アフリカ、アメリカで三角貿易が出来上がっていき、その成立のために植民地獲得の競争、つまりは戦争が頻発するという世界史のシステム的なつながりが浮き上がる。一方、それが下層の民衆の生活に直結していたという。読んでいると、歴史とは、ワクワクするほど面白いと思えてくる。
砂糖は世界中の誰からも好まれる食品であり、近代初期の世界で広く取引された、いわゆる「世界商品」の代表的なものである。
「世界商品」とは何か。著者は毛織物と綿織物の違いを例にして説明する。寒冷で牧羊の盛んだったヨーロッパでは中世から毛織物が主流だったが、アジアやアフリカに来るようになって、さかんに毛織物を売り込んだが、温暖なインドやアフリカでは分厚い毛織物は売れず、薄くて、洗濯がしやすく、鮮やかな色のプリントができる綿織物が、逆にヨーロッパに輸出された。このようにヨーロッパでしか通用しなかった毛織物と違って、綿織物は「世界商品」だった。
この「世界商品」を独占できれば大きな利益をあげることができる。16世紀以降の世界史は、「世界商品」をどの国が独占するかという競争の歴史として展開してきたという側面がある。
砂糖についても、16世紀から19世紀にかけて、世界中の政治経済のリーダーたちは、砂糖の生産をいかにして握るか、その流通ルートをどのようにして押さえるかに知恵を絞ったのだった。ブラジルやカリブの島々には、砂糖生産のためにプラテーションの大農場がつくられた。プランテーションでは、サトウキビの栽培とその加工に集中し、それ以外の活動は一切顧みられなかった。例えば穀物のような食糧は清算されず輸入に頼ったのである。このプランテーションにはヨーロッパの、ときにイギリスの資本が注ぎ込まれ、多数のアフリカの黒人が奴隷として送り込まれて強制的に労働させられた。
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