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2024年7月 8日 (月)

今野真二「日本語と漢字─正書法がないことばの歴史」

11114_20240708234701  サブタイトルにもなっている「正書法がないことば」について、音声言語を文字にする際に1通りしかないというのが正書法があることばということなる。日本語で「こころ」にあたる英語はheartだが、5文字のアルファベットをこの順番に並べなければならず、それ以外は誤りということになる。そのheartという一つだけが正しい。これに対して、英語のheartにあたる日本語は、「こころ」でも「心」でも「ココロ」でも、場合によっては「精神」にルビをつけてこころと発音できてしまう。このように、日本語を文字化する場合、複数の選択肢がある。つまり、文字化の仕方が一通りではない。それが正書法がないということになる。
 英語を典型とする欧米の言語学では、まず音声言語があって、文字はその音声言語を書き記すものという二次的なものだった。正しい書き方がたった一つだけある言語は、文字化に際して選択肢がない。この場合、文字は表わすだけで言語そのものに何らかの影響を与えるとは考えない。これに対して、日本語は正しい書き方がなく、つねに文字化に選択肢がある。このように、多くの漢語を借用して日本語の語彙体系ができあがっている。漢語を借用するということは、その借用した漢語を語彙体系内に位置づけるということで、位置づけるためには、和語とどのように結びつけるか、どのように距離をとるかをすり合わせる必要がある。そのためには、漢語の語義をきちんと押さえる必要がある。そうなると、漢字ただの記号ではない。
 もともと日本語には文字がなく、中国語の文字である漢字を導入した。この漢字には文字自体に中国語の意味があり、それを日本語で使おうとすると、もともと漢字が持っている中国語の意味とは一致しないズレがあった。そのため、文字化のプロセスで日本語の意味とのすり合わせが生じ、つまり、日本語に影響を与えた。とくに、日本語にはなかった「かきことば」を生み、「かきことば」と対比的に「はなしことば」を派生させた。そのように見ると、日本語はユニークだと思う。

 

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