ロドニー・スターク「キリスト教とローマ帝国─小さなメシア運動が帝国に広がった理由」
古代のローマ帝国のはずれで起こったローカルで小さなメシア運動が、わずか2世紀あまりで、古典古代の多神教を駆逐し、西洋文明の支配的信仰となったのは、どうしてか。その展開のプロセスをまるでベンチャー起業が成功して大企業へと成長したマーケティングによる市場分析すねように読み解く試み。現代でも、モルモン教のようなカルトが規模を拡大し教団に成長することがあるが、そこで観察された詳細を、あるいはベンチャーが起業して大企業へ成長するプロセスを、古代のキリスト教団に当てはめて比較することで、歴史学では見えてこなかった視点を歴史学的に検証していく。初期のキリスト教が発生から4世紀の間の信者の増加率は40%と推計できるが、その伸び率は、現代のモルモン教の伸び率と同じ程度で、奇跡的というほうどのものではない。ただし、キリスト教団の集団の性格と新しい戦略が、従来のローマの多神教の脆弱さを衝いて、それに替わることで、高い伸び率を保ち続けたことが、その理由で、けっして、奇蹟や殉教に彩られた宗教史の常識は当てはまらない。むしろ、本書の説明の方が、現代の私には常識的で説得力がある。これと同じことは、日本の敗戦後から高度経済成長の時期に、ムラが解体し、都会に放り出された若い個人を回収するように創価学会や共産党がメンバーを増やしたことにも言えると思う。
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