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2024年8月26日 (月)

小林英夫「日中戦争─殲滅戦から消耗戦へ」(7)~第5章 二つのパワー

 ここでは、日中戦争をハードパワーとソフトパワーの相克という視点から見る。戦争におけるハードパワーとは軍事力や産業力のことを指し、ソフトパワーは直接の武力によらない政治・外交の他、メディアによる宣伝力、国際世論支持を集めるような文化的な魅力など広範な力が含まれる。ここで重要なのは野蛮・卑劣な行為は、短期の殲滅戦では勝敗に影響はないが、長期の消耗戦では自殺的行為となる。それはソフトパワーを大きく損ない、その分相手のそれを増大させる。
 ハードパワーでは日本は圧倒的優位に立っていた。他方、ソフトパワーは欠如していた。その象徴的な例が外交であり、さいごまで、うまく機能させることができなかった。相手の中国側の不信を招き和平交渉を不可能にしてしまう。これに対して蒋介石は、日本の貿易・産業の命脈を握るアメリカに焦点を合わせて外交ロビー活動を積極的に展開し、宣伝という武器で世論を動かしていった。そのため、マスコミの論調が次第に中立から中国寄りに移っていった。ジャーナリズムまで巻き込んだ蒋介石の外交戦は、中国のソフトパワーの白眉であった。言論が戦争の勝敗に与える影響なと、日本の戦争指導者は一顧だにしなかった。日本の場合は国内ばかりに目を向け、日本人にしか共有できない閉じた言論に偏していて、日本の行動について国際的理解を得ようという発想はなかった。

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