渡邉雅子「「論理的思考」の社会的構築─フランスの思考表現スタイルと言葉の教育」(3)~第2章 哲学のディセルタシオンと哲学教育
フランスの中等教育では哲学の授業があり、そこでディセルタシオンを用いた論証の習得が図られている。哲学の試験はディセルタシオンによる論証となり、その総仕上げがバカロレアである。哲学教育の目的は、現実の複雑さをよく゜理解し、現代社会に対する批判的意識を持つことのできる自律した精神を形成することであり、そのために生徒自身が分析的態度、正確な概念、知的責任を持てるようにする、その目的達成の方法を具現化しているのがディセルタシオンというわけだ。
ディセルタシオンは、(正-反-合)の弁証法を基本構造としており、矛盾の解決を論文構造の原理と目的としている。異なる視点対決させて、(合)を導いたとき、前提を変えて俯瞰すると対立や矛盾していると見えていたことがらが一つのことがらの異なる側面となり、より積極的な視点を導き出すことが可能になる。この時に、矛盾は絶対的な白か黒かのような対立項ではなく、乗り越えていかねばならない問題として設定される。まず問題は何かを突き止め、その問題に対して逆説を問い、異なる視点(逆説)として提示される問題を解決しよう、答えを出そうとする知的営みと態度とがディセルタシオンを書く作業の意味だ。そのためには、一般に受け入れられている考えとは逆の考えすら全力で論証しなければならない。その後(合)をつくるためには、ものごとを見る視点の微妙なニュアンスの違いを吟味しなければならない。ある問題について深く追求するということの意味は、ここではあらゆる可能性を考え尽くすことである。それゆえ、ディセルタシオンを書くことの意味は、グラデーションであらゆる可能性を検討する訓練となる。その結果、矛盾を解決して答えを出すことができるという感覚を生徒に与える。
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