決算説明会見学記~景気は底打ち?
先日、懇意にしていただいているアナリストの厚意で、N社の第三四半期の決算説明会を見学してきました。某有名メーカーの副社長を社長にスカウトしたこと、業績予想の下方修正を発表したことなど、話題豊富で、質問者には読売新聞や毎日新聞の経済記者とは思えない質問があったりして(これらの質問者は、会長のN氏におちょくられて会場内の失笑をかっていました)、いつも以上にぎやかな説明会でした。下方修正は、米中摩擦などの国際的な経済情勢によるというのが、他の会社だったら、そう説明するのでしょうか、N氏はそういう言い方を潔しとはしないで、事業戦略の根本的な転換のための先行投資のためだと言います。例えば、自動車というのはエンジンが核で自動車メーカーは、それぞれ技術とノウハウを積み上げたエンジンで他社と差別化している。だから基幹部分を内製している。だからトップシェアでも10%程度。これがEVになると、パソコンや家電と同じようにコモデティ化することになる。EVの中の機械部分は、パソコンの中と同じように、どこのメーカーでもハードは同じになってしまうことになるだろう。そうするとEVの差別化はソフトやデザイン、例えば自動運転とか、そういうことになる。その時に、Nはパソコンにおけるインテルをめざすという。つまり、EVの中のハードのモーターはすべてNが供給してEV市場の支配を目指す。そのためには、大量生産体制で市場シェアを90%とかの独占にして、同社の製品を標準にしてしまう。だからライバルは同業他社だけでなくOEMメーカーも含まれることになる。いわば、EVの中身つまりハード部分をプラットフォームとして、自動車メーカーは自社製造しなくなるので、そのすべてを引き受けてしまうことを目指すということです。この場合の自動車メーカーは自動運転などのソフト開発で手いっぱいで、ハード部分を製造している余裕はなくなってしまうだろうという。そういう、いま、EVへの切り替えがスタートしている、この時期に全てのEVメーカーにリアルタイムで供給できる体制を作るために大規模な投資をしているという。そのために、キャッシュフローが落ち込むのは当然だという。おそらく、この人は逆境の時に元気になる人なのだろうと思う。乱世の英雄タイプというか、いつもより元気ありげに見えました。でも、こういうストーリーを考えると、業績予想の修正の原因となる経済情勢の変化というのは、米中摩擦とかいう外部的なものではなくて、産業構造が変化しているという構造的なもので、中期的なものであるはず、と思います。
しかし、それをN氏本人は、自身の肚の内にあるのは分かるのだけれど、それが本人が整理できて、明確な形になっていないように見えた。それが社内にイメージが共有されているのか、おそらく取締役レベルでも、N氏の個々の指示で動いている。おそらく、某社から招かれた社長さんも、そういう歯車にされているのが容易に想像できた。というのも、N氏は、そういう大きなビジョンをまとまった形で説明したのではなくて、質問に答えて、個々の施策の説明としてしか話していなかったから。説明資料のなかで業績予想の下方修正の原因が書かれていましたが、いくつかの理由がアトランダムに列記されているだけした。そこから、状況がどうなのか、それを同社はどのように捉えているのか、そういうイメージが湧くものではありませんでした。N氏は、おそらく身体に染みついていて、本能的なレベルで動けてしまうでしょう。しかし、彼以外の者は、そうはいかないでしょう。かりに、説明会の質疑応答の、個々の話から大きな物語とかビジョンにまとめてみて提示するのか、私は例えばIRという部門の仕事だと思っているが、そういうことは説明資料を見てても、気配も感じられなかった。そういうところは、この会社にはないのだろうか。おそらく、今、Nは、イチかバチかの大博打に一歩踏み出しているように見えます。独断的な見方ですが。
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